日本軍は沖縄県人をどう見ていたか

島尻郡誌(明治43年) 沖縄県の歴史的関係および人情風俗(大正11年)
沖縄警備隊区徴募概況(明治43年) 石兵団会報綴(六十二師団)(昭和19年)

    以下の資料は、日本軍関係機関 ・役所が、沖縄県人についてまとめたものである。それは、沖縄に徴兵令が実施された明治30年代からの日本軍の沖縄認識とも言えるものである。このような認識は、沖縄に日本軍が配備された今次大戦においても変わるものではなかった。そして、このことが「沖縄戦」において、あの忌まわしい数々の日本軍〈兵〉による残虐行為の一つの原因とも考えられるのである。

〈資料1〉(「島尻郡誌」から)                 [口語訳]

 徴兵令の実施

 明治三十一年徴兵令実施当時は一般郡民に軍事思想がなく、多数の壮丁は無学且つ軍隊の事情に通じない為め徴兵忌避を企て、天賦の健康を害したものもあつた。之等は一部の愚民で其の結果刑罰に処せられた者もあつた。また徴兵検査に際しては、一族知友等多数の附添人が群集して検査の結果を窺ひ、不合格となれば祝典を張り、合格すると慰安的見舞をするといふ風習もあつた。斯る故に社会教育に依つて軍事智識の普及に努め、国民皆兵の観念を与へると共に兵役の義務を重んぜしむる方法を講じ、明治四十三年郡達を以て左記の通り兵役義務励行規定を設定し、それを実行した結果軍事思想も喚起し、今日では忌避の行為をするものもなくなつた。

 而して徴兵検査の結果甲種合格者に対しては、各町村夜学会に於て国語・修身・算術を予習させて入営せしめることゝした為、現役中の学術成績も良好となり、帰休を命ぜらるゝ者も多い。当局も左記の如き規定を設けて、其の成績向上に努力した。
一、島尻郡達第四号
町村役場
小学校
明治四十三年七月沖縄県訓令乙第六十六号第一条ニ依リ兵役義務励行規定左ノ通り定ム
 明治四十四年三月二十三日
                       島尻郡長斉藤用之助
兵役業務励行裁定
第一条 町村内ニ於ル壮丁ヲシテ完全ニ兵役義務ヲ履行セシムル為メ本規定ヲ設ク
第二条 町村長及小学校長ハ第三条ニ定ムル実行委員ノ指導監督ノ任ニ当リ又ハ協力シテ実行ヲ期スヘシ
第三条 字青年会ニ於テハ本規定ヲ励行スル為メ衛生組合若クハ旧来ノ組ヲ一区域トシ実行委員二名以上ヲ置クヘシ実行委員ハ成可字内ニ於ケル名望家及在郷軍人中ヨリ字青年会之ヲ推薦スルモノトス
第四条 実行委員ノ住所氏名ハ字青年会長ヨリ町村長ヲ経テ郡長ニ報告スヘシ
第五条 実行委員ハ明治四十三年沖縄県訓令乙第六十六号ノ趣旨ヲ体シ左ノ各項ヲ実行スヘシ
一、尚武的思想ノ養成ヲ図ル為メ其区域ニ於ケル十五才以上二十才ニ至ル男子及其父兄ニ対シ常ニ其言動ニ注意シ勉メテ相接近シ
以テ和親ヲ計ルコト
二、故意ニ疾病ヲ作為シ又ハ身体ヲ毀傷スル者若クハ之等ノ教唆ヲ為ス者ナキ様深ク警戒ヲ加フルコト
三、徴兵適齢者及徴兵身体検査ノ結果甲種合格シタル者ヲシテ傷痍疾病ニ羅リタルモノアルトキハ其原因ヲ取調ヘ医師ノ治療ヲ受ケサルモノハ直ニ之ヲ勧誘スルコト
四、壮丁兵役ニ関係アル者ニシテ他ニ転籍寄留スル者アルトキハ其行先ヲ取調ヘ又ハ十四日以上ノ旅行ヲ為ス者ニ対シテハ其動静ヲ調査スルト同時ニ当人及家族ニ対シ正当届出ヲ勧告スルコト
五、夜間青年男女ノ混遊及徴兵身体検査前結婚スルヲ防止スルコトニ努力スルコト
六、男子ニシテ結髪ノ者ハ此際断髪ヲ勧誘スルコト
七、徴兵身体検査ノ為徴兵検査場ニ出頭スル者受検査者一人トシ家族親戚知友ノ随伴ヲ厳禁スルコト
八、現役兵入営ニ際シテハ軍人優待会等ノ団体ニテ送別スルノ外個人相互間ニテ金品贈与ノ旧習ヲ廃止スルコト
九、現役兵那覇出発ノ際多量ノ物品携帯及家族外ノ見送ヲ厳禁スルコト
十、在営者ニ対シ妄二金銭物品ノ送付ヲ為サザル様其父兄ニ戒告スルコト
十一、現役及予備後備役中戦死病没シタル者ノ遺族及廃兵並ニ入営兵ノ家族ニ対シテハ慰安ヲ与ヘ又ハ諸種ノ便益ヲ計ルコト
十二、現役勇退営帰郷ノ際土産物ヲ配与スルコトヲ絶対ニ禁スルコト
十三、前各項ノ事実アリタルトキハ遅滞ナク字青年会長ニ報告シ且ツ必要ノ場合ハ町村長区長駐在巡査及受持巡査ニ協力ヲ求ムルコト
第六条 字青年会長ハ実行委員ヨリ前条ノ通報ヲ受ケタルトキハ相当ノ措置ヲ為シ其委末ハ速ニ町村長ヘ通報スヘシ
第七条 徴兵忌避者及教唆者ニ対シ町村青年会字青年会ノ決議ニ依リ徳義上ノ制裁ヲ加ヘタルトキハ直ニ町村長ヲ経テ郡長ニ報告スへシ
第八条 町村青年会字青年会其他ノ集会ヲ開催スル時ハ尚武的思想ノ養成ニ関スル講話ヲ為スヘシ
第九条 町村長及小学校長ハ相当ノ方法ヲ設ケ壮丁ノ予習教育ヲ為スヘシ
第十条 実行委員中功績顕著ナル者ニ対シ町村青年会字青年会ノ決議ニ依 リ之ヲ表彰又ハ賞与シタルトキハ其状況ヲ町村長ヲ経テ郡長ニ報告スヘシ
第十一条町村長ハ毎年九月ニ於テ満十七才以上満二十才未満ノ男子ヲ召集シ駐在巡査若クハ受持巡査ト共ニ身体ノ状況ヲ調査スヘシ召集ニ応セサル者ニ対シテハ其家庭ニ就キ之ヲ査察スヘシ
前項調査ノ結果ハ第一号表ニ依リ報告スヘシ
第十二条町村長ハ徴兵適齢者及前年仮決者ニ対シテハ村医及駐在巡査若クハ受持巡査ト共ニ毎年徴兵署開始二ケ月前ニ於テ身体検査ヲ予行シ其結果ヲ第二号表ニ依リ報告スヘシ
第十三条 第十一条ノ調査第十二条ノ検査及徴兵身体検査ノ結果甲種合格シタル者ニシテ花柳病皮膚病トラホーム鼠蹊線肥大其他ノ傷痍疾病ヲ発見シタルトキハ村雇医ニ其人名書ヲ送付シ本人及父兄ヲ呼出シ直ニ村雇医ノ診察ヲ受ケシメ治癒スル迄治療ヲ受ケシムヘシ 雇医ヲ置カサル町村ニアリテハ本人及父兄ノ好ム医師ニ診察セシメ其医師ト連絡シ治療セシムヘシ
 前二項ニ依ル治療ヲ受ケサル者ニ対シテハ町村青年会又ハ字青年会ノ決議ニ依リ徳義上ノ制裁ヲ加フヘシ
 但シ現役兵当籤者ハ集合地ニ於ケル身体検査施行当日医師ノ治療証明書携帯セシムヘシ
第十四条 徴兵事務条例施行細則第四十条ノ三ニ依リ一時帰郷ヲ命セラレタル者ニ対シテハ第十一条乃至第十三条ノ規定ヲ準用ス
弟十五条 徴兵忌避者若クハ嫌疑者アル時ハ町村長ハ其ノ住所氏名忌避ノ原因状態ヲ速ニ報告スヘシ
附則
第十六条 本規定ハ発令ノ日ヨリ施行ス
第十七条 字青年会ハ本規定ヲ実行スル為メ必要ナル申合規約ヲ設クヘシ
第十八条 青年会ノ設立ナキ字ニ在リテハ其設立スル迄納税組合、衛生組合等ノ団体ニ於テ本規定ヲ実行スヘシ

 第一号表
満十七歳以下(ママ)上廿歳末満ノ者 身体検査
           明治 年 月 日 何 町 村
年齢         健康者   傷痍病者        摘要
満十七歳
満十八歳末満
満十八歳
満十九歳末満
満十九歳
満二十歳未満
 計
注意
 傷痍疾病者及不具者ハ摘要欄内ニ区分詳シク記スルコト
 (例、傷痍疾病者ノ内眼疾一名皮膚病二名花柳病一名手足其他負傷一名)
 但シ負傷者ハ負傷ノ部分ヲ区分シ記スルコト
第二号表
 壮丁身体検査予行調
                    明治 年 月 何 町 村
本年適齢者      名
内健康者      名
傷痍疾病者      名
前年仮決者      名
内健康者       名
傷痍疾病者    名
総人員      名

検査の結果 身 長 摘                 要 住 所 職業 氏 名
健康 尺寸分 町村字番地 何某
傷痍疾病 尺寸分 何年何月ヨリ何病ニ罹リ目下治療中 町村字番地 何某
何々 尺寸分 何々 町村字番地 何某
何々 尺寸分 何々 町村字番地 何某

注意
  外国在留及ビ在学者並ビ傷痍疾病者ハ必ズ摘要欄ニ詳シク記スコト。
(『島尻郡誌 第三章軍事』から)


口語訳

 明治31年「徴兵令」が実施された当時は、一般郡民(沖縄県島尻郡−制作者)には軍事思想がなく、多数の壮年男子は無学かつ軍隊の事情を知らないため、徴兵忌避を企て、天賦の健康を害した者もあった。これらは、一部の愚か者でその結果刑罰に処せられた者もあった。

 また、徴兵検査に際しては、一族や友人知人等多数の付添人が参集して、検査の結果を窺い、不合格となったら祝典を開き、合格すると慰めの見舞いをするという風習もあった。

 このような状況であったので、社会教育によって軍事知識の普及に努め、国民皆兵の考えを植えつけるとともに兵役の義務を重んじさせる方法を講じて、明治43年、郡達をもって次の通り「兵役義務励行規定」をつくり、それを実行した結果、軍事思想も喚起し、今日では(徴兵検査)忌避の行為をする者もなくなった。そして、徴兵検査の結果甲種合格者に対しては、各町村において夜学会を開いて、国語、修身(現在の道徳)、算数を予習させて入営させることとしたため、(軍隊での)現役中の学業成績も良好となり、帰休を命じられる者も多い。当局も次のような規定をつくり、その成績向上に努力した。

一 島尻郡達第4号
                                                                町村役場
                                                                小学校
    明治43年7月沖縄県訓令乙第66号第1条によって「兵役義務励行規定」を左の通り定める。
                                                               明治44年3月23日 島尻郡長 斉藤用之助

兵役義務励行規定

第1条 町村内における壮年男子を完全に兵役の義務を履行させるために本規定を設ける。

第2条 町村長および小学校長は、第3条に定める実行委員の指導監督に当たり、または協力して実行させるなければならない。

第3条 字青年会においては本規定を励行するために衛生組合もしくは旧来の組を一区域として実行委員2名をおかなければならない。実行委員はできるかぎり字内において実力者および在郷軍人の中より字青年会が推薦するものとする。

第4条 実行委員の住所氏名は、字青年会長より町村長を経て郡長に報告しなければならない。

第5条 実行委員は、明治43年沖縄県訓令乙第66号の趣旨を体得し、左の各項を実行しなければならない。

一、軍事を重んじる思想の養成を図るため、自分の区域における15歳以上20歳までの男子およびその父兄に対し常に言動に注意し、努めて近づき親しくすること。

二、故意に疾病を作為したりまたは身体を毀損する者もしくはこれらを教唆する者がないように深く警戒すること。

三、徴兵適齢者および徴兵身体検査の結果甲種に合格した者が傷痍疾病に罹った者がある時は、その原因を調べ、医師の治療を受けていない者は直ちに治療するよう勧めること。

四、壮年男子の兵役に関係する者が、他に転籍寄留する者がある時は、その行き先を調べ、または14日以上旅行をする者に対しては、その動静を調査すると同時に本人および家族に対して正当な届出をさせること。

五、夜間の青年男女の交際および徴兵検査前の結婚を防止することに努力すること。

六、男子にして結髪の者はこの際断髪を勧めること。

七、徴兵身体検査のため、徴兵検査会場に出頭する者は受験者一人とし、家族親戚知友の随伴を厳しく禁止すること。

八、現役兵入営に際しては、軍人優待会などの団体で送別する他、個人相互間で金品の贈与の古い習慣を廃止すること。

九、現役兵が那覇出発の際に、多量の物品を携帯したり、家族以外の見送りを厳禁すること。

十、兵営に在住する者に対して、みだりに金銭物品を送ることがないようその父兄に忠告すること。

十一、現役および予備後備役中に、戦病死した者の遺族および廃兵ならびに入営兵の家族に対しては慰安を与え、または種々の便益を図ること。

十三、前各項の事実がある時は、遅滞なく字青年会長に報告しかつ必要な場合は町村長、区長、駐在巡査および受け持ち巡査に協力を求めること。

第6条 字青年会長は実行委員より前条の通報を受けた時は、相当の措置を行い、その詳細は速やかに町村長に通報しなければならない。

第7条 徴兵を忌避した者およびそれを教唆した者に対しては、町村青年会、字青年会の
決議によって道義上の精彩を加えた時は直ちに町村長を経て郡長に報告しなければならない。

第8条 町村青年会、字青年会、その他の集会を開催する時は、軍事を重んじる思想の養成に関する講話をおこなわなければならない。

第9条 町村長および小学校長は相当の方法で壮年男子の予習教育をしなければならない。

第10条 実行委員の中で功績が顕著な者に対して、町村青年会、字青年会の決議によって表彰または賞与した時は、その状況を町村長を経て郡長に報告しなければならない。

第11条 町村長は毎年9月に満17歳以上満20歳未満の男子を招集し、駐在巡査もしくは受持ち巡査と共に身体の状況を調査しなければならない。招集に応じない者に対してはその家庭について査察しなければならない。
2 前項の調査の結果は第1号表により報告しなければならない。

第12条 町村長は徴兵適齢者および前年の仮決者に対しては、村医および駐在巡査もしくは受持ち巡査とともに毎年徴兵署開始二カ月前に身体検査を予行し、その結果を第2号表により報告しなければならない。

第13条 第11条の調査、第12条の検査および徴兵身体検査の結果、甲種合格した者で花柳病、皮膚病、トラホーム、鼠径線肥大、その他の傷病を発見した時は、村雇用医にその名簿を送付し、本人および父兄を呼び出し直ちに村雇用医の診察を受けさせ、治癒するまで治療を受けさせなければならない。

2 雇用医を置かない町村では、本人および父兄の好む医師に診察させ、その医師と連絡し治療させなければならない。

3 前二項による治療を受けない者に対しては、町村青年会または字青年会の決議により道義上の制裁を加えなければならない。
ただし、現役兵当選者は、集合地において身体検査を行い、当日医師の治療証明書を携帯させなければならない。

第14条 徴兵事務城砦施行細則第40条の3により、一時帰郷を命じられた者に対しては、第11条および第13条の規定を準用する。

第15条 徴兵忌避者もしくは徴兵忌避の疑いのある者がいる時は、町村長はその住所氏名、忌避の原因状態をすみやかに報告しなければならない。

付則

第16条 本規定は発令の日より施行する。
第17条 字青年会は、本規定を実行するために必要な申合せ規約を作らなければならない。
第18条 青年会がない字ではそれが出来るまで、納税組合、衛生組合等の団体に本規定を実行させなければならない。

第1号表 17歳以上20歳未満の者身体検査
                                                            明治 年 月 日 何 町村

年 齢 健 康 者 傷 痍 疾 病 者 摘 要
満17歳
満18歳未満
満18歳
満19歳未満
満19歳
満20歳未満

注意
傷病者および身体障害者は適用欄にその区分を詳しく記すこと。
(例、傷病者の内眼疾1名、皮膚病2名、花柳病1名、手足その他負傷1名)
ただし、負傷者は、負傷の部分を区分して記すこと。

第2号表
壮年男子身体検査予行調
                                                        明治 年 月 日  何町村

本年適齢者  
内健康者  名 傷痍疾病者
前年仮決者   名
内健康者   名 傷痍疾病者
総人員
検査の結果 身長 摘要 住所 職業
健康 尺 寸 分 町村字番地
傷痍疾病 尺 寸 分 何年何月より何病に罹り目下治療中 町村字番地
何々 尺 寸 分 何々 町村字番地
何々 尺 寸 分 何々 町村字番地

注意
  外国在留および在学者ならび傷痍疾病者はかならず摘要欄に詳しく記すこと。
(『島尻郡誌 第三章軍事』から)


〈資料2〉 明治四十三年度 『沖縄警備隊区徴募概況』        [口語訳]
    第六 検査ノ困難
 本県ニ於ケル検査ノ難事トスル処ハ、一般ニ普通語ヲ解スル者少ク、従テ各検査官共、通弁ヲ要スルニ在り。特ニ忌避観念アル地方ニ於テハ特更(ママ)ニ普通語ヲ知ラザル偽リテ、徴集ヲ免レントスル者多キコト其ナリ。
  第七 壮丁一般ノ状況
一 軍事思想
 本県下一般ノ軍事思想ハ不充分ナリ、就中、相々良好ノ成績ヲ有スルハ島尻郡ノ各離島諸村及八重山島ニシテ、其他ハ末ダ見ルベキモノナシ。之レニ反シ島尻郡本島諸村、中頭郡諸村、国頭郡本部、今帰仁両村ノ如キハ徴兵忌避行為尠カラザルハ誠ニ遺憾トスル処ナリ。要スルニ本県民ハ歴史的ニ勇気欠如シ居ルモノゝ如シ。
一 徴兵忌避及其手段
 本県ニ於ケル軍事思想ノ幼稚ナルト国家思想ノ薄弱ナルトハ遂ニ徴兵ヲ忌避シ、動モスレバ兵役ノ大義務ヲ免レントスルモノ多シ。其手段ハ眼球ヲ針ニテ刺シ、又ハ線香ノ火ニテ灼キ、又ハ耳ノ鼓膜ヲ破り、手指ヲ切断シ、或ハ手指肘関節ヲ強剛屈曲シ、或ハ樹草ノ毒汁ヲ身体ニ塗抹シテ、激烈ナル皮膚炎ヲ起シ、或ハ故意ニ花柳病ニ罹ル等実ニ極端ナル疾病傷痍ヲ作為スル者多キハ誠ニ痛心ニ堪ヘザル所ニシテ目下、当局ト協同一致之レガ改善指導ニ努メツゝアリ。
 第八 徴兵ニ対スル地方人民ノ状況
 本県民ノ軍事思想及国家思想共ニ薄弱ナルハ、忌避観念ヲ旺盛ニシ、為メニ徴兵検査ヲ観覧スル為メ、数百千ノ群衆、徴兵署ノ周囲ニ来集シ、喧噪乱雑ヲ極メ、検査ノ妨碍トナリ相互不利益尠カラザルヲ以テ、昨年来之レヲ禁止セシモ、本年ニ於ケル結果ハ一般ニ良好ナルモ未ダ全ク止マズ。町村ニ依リテハ更ニ旧来ト異ナラザル処アリ。
就中国頭郡本部徴兵署ニ於テハ身体検査ノ方法ニ不服ヲ唱ヘ、同村桃原ノ頑迷士族ノ群衆暴行ヲ散ラシ、徴兵署及学校ノ器具ヲ破壊シ、徴兵官中微傷ヲ負フ者アルニ至り、目下主謀者廿余名ヲ検挙シ、那覇地方裁判所検事局ニテ予審中ナリ。其他新入営兵那覇港出帆ノ際ノ如キハ数千ノ老幼男女港頭ニ□集シテ雑鬧ヲ極メ、甚シキハ悲歌涕泣壮丁ノ前途ヲ祝福(※1)スルノ状ハ、実ニ他ニ見ル能ハザル奇観ナリトス。然レドモ此状況モ年々文運ノ進歩ト共ニ改マリツゝアルハ事実ノ証明スル処ナリ。
             〔『防衛研修所戦史室蔵』〕


[口語訳

第六 検査の困難
本県における(徴兵)検査の困難とするところは、一般に普通語(共通語)を理解する者が少なく、したがって、各検査官とも通訳が必要となるところにある。特に、(徴兵検査)忌避の観念が強い地域においては、ことさらに普通語を知らないふりをして、徴集を免れようとする者が多いことである。

第七 壮年男子一般の状況

一、軍事思想
本県下一般の軍事思想は不十分である。その中でも、良好な成績を有するのは島尻郡の各離島および八重山諸島で、その他は見るべきものがない。これに反して島尻郡本島の各村、中頭郡の各村、国頭郡の本部、今帰仁の両村などは徴兵忌避行為が少なからずあって、誠に遺憾とするところである。要するに、本県民は歴史的に勇気が欠如したもののようである。

一、徴兵忌避およびその手段
本県における軍事思想が幼稚であるとともに国家思想も薄弱であることは、ついに徴兵を忌避し、ともすれば、兵役の大義を免れようとする者が多い。その手段は眼球を針で刺したり線香の火で焼いたり、または耳の鼓膜を破り、手指を切断し、あるいは手指、肘関節を無理に屈曲し、あるいは樹や草の毒汁を身体に塗って激烈な皮膚炎を起こし、あるいは故意に花柳病(性病)に罹るなど、実に極端な疾病傷痍を故意にする者が多いことはまことに痛心に堪えられないところである。目下、当局と共同一致してこのようなことを改める指導に努めているところである。

第八 徴兵に対する地方人民の状況
    本県民の軍事思想および国家思想ともに薄弱であることが、忌避観念を旺盛にして、そのために、徴兵検査を観覧するため、数百千人の群衆が徴兵署の周囲に集まって、喧騒乱雑を究め、検査の妨害となり、相互に不利益が少なくないと判断して、昨年来これを禁止した。本年における結果は一般に良好となったが、まだ、全てが無くなったわけではない。町村によっては従来と変わらないところもある。

    そのような中で、国頭郡本部の徴兵署においては、身体検査の方法に不服を唱え、同村桃原の頑固な氏族の群衆があちこちで暴行をはたらき、徴兵署および学校の器具を破壊し、徴兵官の中には微傷を負う者が出るに及んで、目下首謀者20余名を検挙し、那覇地方裁判所検事局で予審中である。その他、新入営兵が那覇港出帆の際のごときは、数千の老幼男女が埠頭に□集して騒然を究め、甚だしきは悲愴な歌を歌い泣きわめいて、壮年男子の前途を祝福(※)する様子は、他にみることがない奇抜な光景である。しかし、この状況も年々文明の進歩とともに改まりつつあることは事実が証明しているところである。

※(祝福)…徴兵検査で合格し入営が決まると、那覇港から出発するのであるが、それには、家族親戚一同、知人友人が多数見送りに参集した。当時は兵隊となって出ていくことは、この世の別れという観念が強く、悲壮感をもって見送ったことが予想される。徴兵担当の本土の役人には、沖縄方言で歌われる歌の意味など分かるわけもない。入営は名誉だと決めつける彼らにとっては、嘆き悲しみながら永遠の別れをする県民の姿が「奇観な祝福」に見えたのであろう。


〈資料3〉部外秘『沖縄県の歴史的関係及人情風俗』              [口語訳]

  本書は、沖縄県の歴史、人情、風俗を略述し、県出身兵卒教育の参考に資する目的を以て編纂せるものなり。
                           大正十一年十二月
                 沖縄連隊区司令部
第二章 人情、風俗、習慣及民度
 第一節一般的人情
 本県の人情及個人の性格に関しては、上述の如く主権者の興廃及三百年来圧迫政策の関係と教育程度の低級と交通困難なる孤島の影響とを受け、一種の特質を生ぜり。然れども、近年教育の普及と一般人民の自覚自奮に依り逐年改善修練せられつゝあるも尚其趣を異にせる点多し。
 其一 短所
一 皇室国体に関する観念、徹底しからず。
 久しき間、日支両国の間に介在し、独立自覚力なく、徒らに数百年来島津氏の圧迫を受けし為、義に感じ思うの念なく、唯自己の生命財産を保存せんことに勉め何人の統治を受るにも敢て之を顧慮することなかりし。(以下略)
二 進取の気性に乏しく、優柔不断、意志甚だ薄弱なり。
(以下略)
三 遅鈍、悠長にして敏捷ならず。
 生活程度低く、気候及農産物の天恵は終に貯蓄心を薄からしめ、活動力を消磨せしめたり。
四 排他的にして、淡白、快活ならず。因循姑息なり。
 多年の圧迫政策の結果、自ら発刺たる意気を欠き、猜疑心を増したる関係ならん。一般に排他思想を有せり。
五 権利義務の観念乏しく、上司の命なれば服従する風あるも、比較的実行を欠く。
 当然の利を放棄して顧ず、自ら進んでなすべき事も上司の命なければ、之を棄てて顧ざる風あり。近来、一部知識階級の者は、徒に権利のみを叫び、寧ろ義務を果たすの念薄らぎつゝある傾向あり。又権利を主張すべき件も他県人には屈従するも、同県人内にありては些細のことも抵抗競争して譲らざるが如し。之旧来圧迫せられし結果、他県人は自己より優秀なる人種と思惟せる為ならん。
六 協同心、公徳心、慈善的観念乏し。
 (以下略)
七 義侠又は侠骨といふが如き、犠牲的精神は皆無といふも過言に非ず。之支那思想に感化か。
八 無気力、無節制、責任観念に乏し。
 圧迫政策に馴れ、終に去勢せられたるによる。又、利己主義の発達は、終に責任観念を失ふに至れり。(以下略)
九 利己心強く、一時的暴利の為には、将来の信用如何も顧ざる風あり。
 自己のためには、他人の利害を顧ず。寧ろ同業親戚を陥れても自己一人の利欲に汲々たり。此精神は商工業等の道徳心にも及び、他人の耳目を欺き、一時的暴利を貪り、永年の信用を失墜して、凡ての事業に失敗する所以なり。
十 家庭に於ける児童の教育に就ては、何等顧ざる者多し。
 文化の度低く、其日暮をなすの結果、家庭に於ける児童は、全く放任せられ、国家的観念、忠臣孝子、貞婦、烈女の事蹟を父母の口より聞くこと皆無なる状態なるを以て、不良少年の多き故なきにあらず。殊に本県の四囲の関係、児童を誘惑するもの少なからざる地にありては、一層考究を要す。延(ママ)て不良青年と不良老年の多き看過すべからず。
十一 盗僻あり。
 所有権を軽視し、物は総て天与と信じ、他人の物を盗用するも敢て恥とせず。小泥棒は悪徳と思はざるが如き風あり。(以下略)
十二 独断力行の風なし。
 燃ゆるが如き犠牲心なく、知識程度極めて低く、大極を観察するの明なく、進取の気性と強健なる精神力と体力とを有せざる結果、常に人の指示を待つにあらざれば事を遂行し能はず。
十三 向上発展の気慨なし。
 小成に安じ、現状維持を以て満足するの風あり。所謂汗の人、腕の人として産を起し、身を立てたる者極めて少し。
十四 情操の念乏し。
 他府県人の涕泣する程度の悲惨事も自己以外に在りては、多く念頭に措かず。従て講演其他に於ても感動する事少なし。
    其二 長所
 長所として賞讃すべき少きは遺憾なれども、比較的県人の長所とするものを上ぐれば左の如し。
一 服従心に富む。
 自ら進んで為さんとする勇気は乏しきも、指導其宜を得ば、何事もなし得る美質を有す。是一部の村に於ては着々成果を挙げつつある所以なり。沖縄出身軍人に就て見るも、歩哨斥候の如き独断を要することは不適当なれども、指揮官に依り、指揮せられる間は、よく困難に堪へ、勇敢なり。
二 柔順なり。
 理屈を言わず薄銀に堪へ、使ひ易き民なり。(以下略)
   第二節一般的風俗
   其一 風俗習慣
ニ、服装、…特に婦人に優雅の点なきは天下に其比を見ず。(以下略)
   一 欠点
ハ、軍事思想に乏しく、軍人と為るを好まず。
 長き間、大平楽を歌ひ、享楽を事とし、尚武心薄きしに因るならんも、又軍隊に接するの機が殆んどなく、父兄青年団等の軍事に関する了解なきは其最大原因ならん。
九 不規律、不整頓。
 軍隊生活には、最も不適当なる悪習慣を有せり。之永年間継承したる悠長なる性格と社会的訓練及生活改善等文化の度低く、陋習に起居する結果ならん。(以下略)
    結論
 以上、説述したる所は徒に沖縄軍人の欠点のみを指摘し、長所として見るべきもの極めて少しと雖、素より先進他府県とを比較したるものにして、全く文化程度の低きに因るものなり。蓋沖縄県に自治制を施行せられたるは漸く昨大正十年のことにて、今や県民は大に其欠点を自覚し、孜々として努力向上しつつあり、他府県と比肩し得るに至る遠き将来にはあらざるべし。
 皇室中心主義、体格の進化、勤労主義、文化程度の向上は、本県民に対し、第一に要望すべき件にして、就中皇室及国体観念の徹底に就ては、全力を用ふるにあらざれば、将来英国の愛闌(ママ)に於ける悔を遺すことなきを保し難きものあり。
 近時、海外に渡航するもの年々増加し、現時二万の出稼者中約八割は布哇及南米に在り。従来鞏固ならざる国体観念を有する彼等の思想上に及ぼす影響蓋し思半に過ぐるものあらん。在郷軍人は、強固なる軍人精神を養成せられ、数年間、内地の制度文物に接し、入営前に比し、著しく心身の向上せるものあるは言を待たざる所にして、又郷党に新知識者を以て遇せられつつあり。故に町村官公吏、教職員、議員、役員等の大半は、在郷軍人の占むる所にして、確かに県民の中堅となり、県民を教導薫化するに力めつつあり。従て軍隊教育の徹底とは直ちに県開発上に影響すること大なるのみならず、惹て県民思想上に及ぼす影響看過すべからざるものあり。教育の任に当らるる諸官、深く此点に留意し、心身共に優秀なる在郷軍人として錦を郷土に斉らしめられんことを切望に堪へず。   
                                  (大正十二年一月十八日 印刷) (印刷所 沖縄刑務所)
             〔『東京都立中央図書館蔵』〕


[口語訳]

本書は、沖縄県の歴史、人情、風俗を概説し、県出身兵教育の参考に活用する目的で編纂したものである。
                                                 大正11年12月
                                                                  沖縄連隊区司令部
第二章 人情、風俗、習慣及民度

第一節 一般的人情

 本県の人情及個人の性格に関しては、これまで述べてきたように、主権者の興廃(※1)があり、約300年にわたっての圧政(※2)と教育程度の低さと交通困難なる孤島の影響とを受け、一種の特質として生じたものである。しかし、近年、教育の普及と一般人民の自覚等によって毎年のように改善されつつあるがまだまだ(本土との)異質性は多い。

その一 短所

一、皇室国体(※3)に関する観念が徹底していない。
長い間、日本と中国(支那)の間にあって、独立心の自覚がなく、数百年来の島津氏の圧迫を受けたため、人道に関しての通念がなく、ただ自己の生命財産を保持しようと努め、何人の統治を受けても、あえてこれに思いを巡らすことはなかった。(以下略)

二、進取の気性が乏しく、優柔不断で意志は非常に弱い。(以下略)

三、行動が鈍く、のんびりとして機敏でない。
 生活程度が低く、温暖な気候と農産物は天からの恵み物という観念が貯蓄心を薄くし、活動力をも失わせた。

四、排他的であっさりしており、快活ではなく、古いしきたりにしがみつきその場その場の生き方をする。
 長年の圧迫政策の結果、心底溌剌とした意気を欠き、人を疑う心が増したことによる関係であろう。一般的に排他的思想を持っている。

五、権利と義務の観念が乏しく、上司の命令ならば服従するようでもあるが、比較的実行力に欠ける。
 当然の利益を放棄して顧みることをしないし、自ら進んですべき事も上司の命令がなければ放置して顧みないようである。最近、一部知識階層の者は、いたずらに権利のみを叫び、むしろ義務を果たす気持ちが薄らいでいく傾向がある。また、権利を主張すべきことでも、他県人には屈従するけれど、同県人の内では些細なことでも抵抗し競争して譲らない。これなども、旧来圧迫された結果、他県人は自分より優秀な人種と考えているためであろう。

六、協同心、公徳心、慈善的な気持ちが乏しい。(以下略)

七、強者をくじき、弱者を助けるという男気(おとこぎ)というような、犠牲的精神というものが全くないといっても過言ではない。これなども中国思想による感化だろうか。

八、気力がなく、節度もなく、責任感が乏しい。
 圧迫政策に慣れて、ついに抵抗や反抗という気力も失ってしまったことによる。また、利己主義の発達は、ついに責任感まで失ってしまった。(以下略) 

九、利己心が強く、一時の儲けのためには将来の信用などを顧みることがない。
    自己のためには他人の利害を考えない。それどころか、同業者や親戚を陥れても自分だけの利欲を考えて汲々としている。この精神は商工業などの道徳心にも影響し、他人を欺いて一時の暴利を得ようとする。その結果永遠の信用を失って、すべての事業に失敗する原因となっている。

十、家庭における子どもの教育については何ら顧みない者が多い。
 文化程度が低く、その日暮らしをしている結果、家庭における子どもは全く放任させられ、国家的観念(※4)、忠臣孝子(親に孝行する者は君主にも忠義だから、忠臣を求めようと思えば、孝行子どもの家から求めなさいの意)、貞婦(貞操を固く守る婦人)、烈女(節操が固く気性のはげしい女性)などについて親から聞いた子どもは皆無という状況である。そのことによって不良少年が多いのもうなずけることである。ことに、本県の(子どもの)環境を見ると、子どもを誘惑するものが少なくない土地柄であるだけに一層考えなければならないことである。不良青年、不良老人の多いことは見過ごすべきではない。

十一、盗みぐせがある。
 所有権というものを軽視し、物はすべて天から与えられたものと信じ、他人の物を勝手に使うことをあえて恥じとはしない。小さな盗みは悪徳とは思わない風習がある。(以下略)

十二、自分で決断し、努力する風潮がない。
 燃えるような犠牲的精神もなく、知識の程度も極めて低く、大所高所でものをみることなく、進取の気性と強健な精神力と体力をもっていないため、常に他人の指示がなければな物事を遂行することができない。

十三、向上発展の気概がない。
 小さな成功に甘んじて、現状維持をもって満足する風潮がある。いわゆる、汗して働き、技術を使って産業を起こし、身を立てた者は極めて少ない。

十四、情操心が乏しい。
 他府県人が涙を流して泣く程度の悲惨事も、自分以外のことであったら、ほとんど思いを寄せることがない。したがって講演会その他においても感動することは少ない。

 その二 長所
 長所として褒めたたえられるものが少ないのは遺憾なことだが、比較的県人の長所としてあげれば次のようである。

一、服従心に富んでいる。
 自ら進んでことをしようとする勇気は乏しいが、指導が適切ならば何事もできる良い性質をもっている。このことは、一部の村においては着々と成果をあげつつある。沖縄出身軍人についてみると、歩哨や斥候(※5)のように自分の決断が迫られることは不適任だが、指揮官によって指揮される間は、よく困難に堪え、勇敢である。 

二、従順である。
理屈を言わず安い報酬に堪え、使いやすい民である。(以下略)

第二節 一般的風俗

その一 風俗習慣

ニ、服装、…特に婦人に優雅さがないことは他にみたことがない。(以下略)

一 欠点

ハ、軍事思想に乏しく、軍人となるのを好まない。
 (それは)、長い間、平和な世の中での生活で、武道を重んじる心が薄くなったことが原因であるが、また、軍隊に接する機会がほとんどなく、父兄青年団等で軍事に関することを知らせていないのがその最大の原因であろう。

九、規律がなく、整頓もできない。
 軍隊生活には、もっとも不適当な悪い習慣をもっている。これも長年受け継がれてきたのんびりな性格と社会的訓練や生活改善など文化の程度が低く、悪い習慣に漬かっている結果であろう。

 結論
 以上、説明したところは、いたずらに沖縄軍人の欠点のみを指摘し、長所として見るべきものが非常に少ないといっても、もとより先進他府県とを比較したものであって、すべては文化程度の低さによるものである。思うに、沖縄県に自治制を施行されたのはようやく昨年の大正10年のことであって、今や県民は大きなその欠点を自覚し、頑張って努力向上しつつあり、他府県と肩を並べることはそう遠くはない。

 皇室中心主義、体格の伸長、勤労主義、文化程度の向上は、本県民に対し、第一に要望すべき件として、そのうち、皇室および国体観念の徹底については、全力を尽くすことがなければ、将来はイギリスのアイルランド(愛蘭)における悔い(※6)を残すことになるのである。

 最近、海外に渡航する者が年々増加し、すでに二万人の出稼ぎ者中、八割はハワイや南米にいる。(このことは)従来強固でない国体観念しかない彼らの思想上におよぼす影響は、簡単に理解できるというものである。在郷軍人は、強固な軍人精神を養成され、数年間、内地の制度や文化に接し、入営前に比べて、著しく心身の向上をしていることは言うまでもなく、(除隊後は)村人からは新しい知識者としての待遇を受けつつある。それゆえに、町村の職員、公務員、教職員、議員、役員等の大半は、在郷軍人が占めており、確かに県民の中堅となって、県民を指導し感化を与える努力を進めつつある。したがって、軍隊教育の徹底は、ただちに県開発に影響を与えることが大きいばかりでなく、かさねて、県民思想上に及ぼす影響もまた見逃すことができない。教育の任務にあたる多くの役人は、この点に深く留意して、心身ともに優秀な在郷軍人として錦を郷里にもたらすよう切望している。

[注]
主権者の興廃(※1)…沖縄がかつて琉球王国であったころ、中国の属国的位置、大和(薩摩)の属国的位置。琉球国はその力関係を図って統治した。
約300年にわたっての圧政(※2)…1609年の島津の琉球入り以来の島津藩の間接統治。
皇室国体(※3)…天皇一家が日本を統治し、国民はその臣民として服従を誓うとする絶対天皇制国家のこと。
国家的観念(※4)…絶対天皇制国家に対する服従の思想。
歩哨や斥候(※5)戦場で、敵の進攻を見張る役目が「歩哨」。敵の状況を事前に査察する役目が「斥候」。
アイルランド(愛蘭)における悔い(※6)…アイルランド共和国のこと。アイルランドがイギリスの侵略を受けその圧政に苦しめられこと。そのために国力が疲弊し、移民を多数出したことなど沖縄の状況に似通っている。しかし、この文書では、具体的にどの点を指摘して「アイルランドにおける悔い」という表現になったのか定かではない。文脈からすれば、アイルランドが支配国イギリスに対する抵抗運動や戦争を繰り返しながら独立を確かなものにしていった歴史的過程に対する憂慮だと推測される。


(資料4) 昭和十九年度 石兵団会報綴(六十二師団)            [口語訳]
第四九号 九月七日 午前十時(浦添)仲間
二 防犯関係
2 姦奪ハ軍人ノ威信ヲ失墜シ、民信離反若クハ反軍思想誘発ノ有力ナル素因トナルハ、過去ノ苦キ経験ノ示ス所ナリ。殊ニ沖縄県人中ニハ他府県人ニ比シ、思想的ニ忘恩功利傾向大ナルモノ多ク、其ノ具体的表現ハ、中傷、陳情、投書等ヲ以テセラルガ故モ掠奪及至
強姦ノ域ニ達セズト雖モ、之ニ近似セル所為ノミテ軍ニ対スル反感ヲ醸成スルニ至ルベシ。且一部地域ニハ貞操観念弛緩シアル所アリ。之ガ誘惑ニ乗ゼラレ、不知不識ノ間、猥□姦通、略取、誘拐、住居侵入等ノ犯罪ヲ犯スコトナカラシムルコト。
3 管下ハ所謂『デマ』多キ土地柄ニシテ、又管下全般ニ亘リ、軍機保護法ニ依ル特殊地域ト指定セラレアル等、防諜上極メテ警戒ヲ要スル地域ニ鑑ミ、軍自体此ノ種違反者ヲ出サザル如ク万全ノ策ヲ講ゼラレ度。
6 管下ハ道路網発達シアラザルト、住民又一般ニ遅鈍ナルトニ因シ自動車事故ニヨル致死傷発生シアリ。


口語訳
昭和十九年度 石兵団会報綴(六十二師団)(※1)

第四九号 九月七日 午前十時(浦添)仲間

二、防犯関係

2 強姦や掠奪は軍人の威信を失わせ、民心の離反もしくは反軍思想を誘発する有力な原因になることは、過去の苦い経験が示している。ことに、沖縄県人の中には他府県人に比べ、思想的に恩知らずで打算的な傾向の強い者が多い。その具体的表現の方法は、中傷や陳情、投書などによってなされる。掠奪や強姦とはいえないにしても、これに類似するだけでも軍に対する反感を醸成するに至るものである。なお、一部地域(の女性)には貞操観念が弱い地域があり、(彼女らの)この誘惑に乗せられ、無意識の間に、猥褻姦通、略取、誘惑、住居侵入などの犯罪を犯すことがあってはならない。

3 管内は、いわゆる「デマ」が多い土地柄で、また管内全般にわたって軍の機密保護法による特殊地域と指定されているなど、防諜上極めて警戒を要する地域であることを考え、軍自体がこの種の違反者を出さないよう万全の対策を講じてもらいたい。

6 管内は道路網が発達していないことと、住民はまた一般に遅鈍であることによって自動車による死傷事故が発生している。

[注]
六十二師団(※1)…沖縄守備軍の中の師団の名称(俗称石部隊)。この頃、62師団は浦添以北現在の沖縄市当たりまでを守備範囲としていた。
                                                                                 (以上3点『浦添市史』から)                         

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